2018年4月21日
No. 3

カイアシ類の一種、ヒジキムシ (Pennella sp.)

ヒジキムシはカイアシ類のうちポエキロストム目に分類される、ヒジキムシ科(Pennellidae)の一種である。海洋で出現する種で、魚類や海棲哺乳類に体サイズの半分を内部に埋もらせて寄生する。

WoRMSを見るとヒジキムシは44種が報告されているが、そのほとんどが再調査を必要とされ、種として妥当とするのは6種のみと言われる(Hogans 2017)。なぜ、誤った記載が多いかというと、ヒジキムシは宿主の状態によって形態を変えるからなのだ(Hogans 1987)。なんとも厄介な種だ。多くの論文でも「Pennella sp.」と表記させ、種(species)を特定させていない。なにか、種を分類させる形質のキーはないのかと、しばしば考え伏せてしまう…。今回も多くの論文をのっとり、「Pennella sp.」と記すことにした。特徴的な種については種小名を紹介する。

形態の特徴

大きさは最大のPennella balaenoptera Koren & Danielssen, 1877(和名:クジラヒジキムシ)で32 cm。P. balaenopteraはナガスクジラ属クジラ類によく寄生する。種小名のbalaenopteraはナガスクジラ属の学名(Balaenoptera)にちなんでいる。小さい魚類に寄生する個体ほど、小さくなり、5 cm以下の小さい個体のPennella sagitta (Linnaeus, 1758) やPennella diodontis Oken, 1815はハナオコゼやカエルアンコウといった、15 cm程度の魚類に寄生する。

カイアシ類の仲間とはいえど、形態はまるでカイアシ類とは言いがたい。しかし、カイアシ類がもつ付属肢は微細で萎縮しながらも保持している。(参考記事:「サンマヒジキムシ (Pennella sp.) にカイアシ類の要素はあるのか」)それらの付属肢と、ヒジキムシの体制をFig. 1に示した。ヒジキムシ頭部に付属肢が並んでいる。外形からは見えないが、口器には第1小顎と第2小顎が備わっている(Abaunza etal 2001)。

ヒジキムシ(Pennella sp.)の体制
Fig. 1 ヒジキムシ(Pennella sp.)の体制

今回、正式な和名がなかった名称には、筆者が名付けた。羽状構造(plume)と舌乳頭(papillae)である。角状突起(horn)や頸部(neck)、胴部(trunk)については複数の論文でそう称されている(Nagasawa 1984;長澤 1984;長澤・上野 2014)。ヒジキムシでの頭胸部(cephalothorax)は一般的なカイアシ類の体制で、頭部から胸脚が位置する胸部までの頭胸部(cephalothorax)と相同な部分となる。ヒジキムシにおいても退化的な胸脚がこの位置にある。

角状突起は宿主にしっかりと把握する器官となる。その把握している組織が、脂身や柔らかいものであれば、長い形状になる。逆に筋組織といった硬いものであれば短く、さらに多岐になる(Hogans 1987)。種によって特徴的な形状であるが(Hogans 2017)、宿主によって形状が変化するため、同定をする時、注意が必要となる。

卵嚢を見てみると、一般的なカイアシ類の卵嚢とくらべて糸状に長くなっている。これはヒジキムシだけでなく、ウオジラミ(Caligidae科)でも言えることだが、シフォノストム目に属するカイアシ類の多くは、卵が一列に並んでいる。そのため、糸状に長くなる。

ヒジキムシに特徴的な羽状構造(plume)

ここで注目していただきたい器官がある。羽状構造(plume)である。寄生している時、宿主から出た部分の先端に位置する(Fig. 2)。まるで羽のようにフサフサとした部分となる。ヒジキムシが記載される時、この部分がウミエラと似ていたため、誤ってウミエラ(Pennatula)の仲間に分類されていた。

ヒジキムシ(Pennella sp.)の羽状構造(plume)
Fig. 2 ヒジキムシ(Pennella sp.)の羽状構造(plume)

なんと、羽状構造が呼吸をする器官ではないかと考えられているのだ。羽状構造を詳細に観察したKannupandi(1976)によると、とても貧弱な構造で、薄い構造になっているという。また、水中の空気交換がしやすいように油脂の層が無いと判明。呼吸するには都合がいいということだ。また、多岐な構造になっていることは、表面積を上げ、効率良く空気交換が可能である。大型なヒジキムシなほど必要とする酸素は増加するはずだが、その分、羽上構造が大型化し、複雑に多岐になるだという(Hogans 2017)。

一般的なカイアシ類は、体表または腸から呼吸をしている。しかし、ヒジキムシのように大型になっては、それだけの呼吸でまかなえきれなくなり、羽状構造ができたに違いない。

寄生時の変態過程

ヒジキムシ(寄生後の成体)はカイアシ類とは思えない奇怪な形態だが、寄生する前、すなわち変態をする前はカイアシ類らしい形態と言える。その形はカイアシ類のうちシフォノストム目に分類されるカイアシ類に特徴的な形態のようだ。(参考記事:「ヒジキムシ(ペンネラPennella sp.)の生活史」

さて、どのように変態をするのか。とても興味深いところである。その鍵となるのは、変態した後の体制である。Fig. 3に一般的なカイアシ類の体制と、ヒジキムシの体制を示した。ヒジキムシの体制を見てみると、一般的なカイアシ類がもつ、第1触角と第2触角のみが、他の付属肢と反対側に位置していることが分かる。普通は、頭部先端から、第1触角、第2触角のはずが、ヒジキムシはその逆である。これはどういうことなのか。寄生した後、第1小顎、第2小顎といった口器を先頭に突出していき、第1触角、第2触角が後方へ折り返されているというのだ(!)なんとも面白い変態の過程である。その時に角状突起が形成していき、ヒジキムシへなるというわけだ。

ヒジキムシ(Pennella sp.)と一般的なカイアシ類の体制の比較
Fig. 3 ヒジキムシ(Pennella sp.)と一般的なカイアシ類の体制の比較

サンマヒジキムシ(Pennella sp.)

最後にひとつ紹介をしたい。サンマヒジキムシ(Pennella sp.)である。本種はサンマに寄生する種だが、種小名は決定されていない。

サンマヒジキムシがサンマに大量に寄生されるようになったのは、1983年、太平洋でのサンマ漁が解禁された後すぐだという(長澤ら 1984)。寄生率は60%を超え、社会問題に発展したほどだ。急に寄生率が上がったのは1982年~1983年の間とされているが、その原因は分かっていない。ちなみに8月下旬から11月上旬には寄生率は低下し、20%まで下回るということが長澤ら(1984)により分かっている。不思議な事に、寄生によるサンマへの影響は確認されていないようで、肥満度も下がっていない。ただ、サンマを消費する我々が不快に感じるだけのようだ。

ここで、Fig. 4を見ていただきたい。矢印は円形の傷を指し示している。実はこれはサンマヒジキムシによる、寄生した後の痕跡である。サンマヒジキムシは産卵後に生涯を終えるが、この時、紫色の体は段々と脱色する。そして、最終的にはサンマヒジキムシは完全に消滅し、写真のような寄生痕ができるという(土井ら 2008)。スーパーに売られているサンマを見てみると、寄生痕がない個体のほうが少ないほどだ。かなり多くの個体にサンマヒジキムシが寄生していたのかが分かる。

サンマ体表にあるサンマヒジキムシ(Pennella sp.)に寄生されていた痕跡
Fig. 4 サンマ体表にあるサンマヒジキムシ(Pennella sp.)に寄生されていた痕跡

文   献

Abaunza P, Arroyo NL, Preciada I (2001) A contribution to the knowredge of the morphometry and anatomical characters of Pennella balaenoptera (Copepoda: Siphonostomatoida: Pennellidae), with special reference to the bucal complex. Crustaceana 74: 195-210.

Hogans WE (1987) Morphological variation in Pennella balaenoptera and P. filosa (Copepoda: Pennellidae) with a review of the genus Pennella Oken, 1816 parasitic on Ceracea. Bull. Mar. Sci. 40: 442-453.

Hogans WE (2017) Review of Pennella Oken, 1816 (Copepoda: Pennellidae) with a description of Pennella benzi sp. nov., a parasite of Escolar, Lepidocybium flavobrunneum (Pisces) in the northwest Atlantic Ocean. Zootaxa 4244: 1-38.

Kannupandi (1976) Cuticular adaptations in two parasitic copepods in relation to their modes of life. J. Exp. Mar. Ecol. 22: 235-248.

Nagasawa K (1984) The Finding of Pennella sp. (Copepoda: Pennellidae) on the Saury, Cololabis saira, in the Western and Central North Pacific Ocean and the Okhotsk Sea. Fish Pathology 18: 205-208.

長澤和也 (1984) サンマに寄生する甲殻類について. 魚病研究 19: 57-63.

長澤和也・石田享一・中村 悟 (1984) 1983年に問題となったサンマヒジキムシについて. 北水試月報 41: 221-236.

長澤和也・上野大輔 (2014) 日本産魚類・鯨類に寄生するヒジキムシ科(新称)Pennellidaeカイアシ類の目録(1916‒2014年). 生物圏科学 53: 43-71.

土井敏男・野田亜矢子・漬 夏樹 (2008) Lernaeenicus ramosus(榛脚亜綱,ペンネラ科)に寄生されたキジハタの組織学的観察と飼育下で自然治癒した1例. 水産増殖 56: 601-602.